Queen’s Medical Centerでの2週間のObservership Program を振り返って

  

  

 
 初期研修2年の小林です。この度、2週間にわたり野木真将先生のもとでハワイ州のQueen’s Medical Center で研修する幸運に恵まれましたので、学んだことを振り返ろうと思います。

 野木先生は宇治徳洲会病院で後期研修を終了した後、ハワイ大学医学部でレジデントを終了ました。現在はハワイ州のQueen’s Medical Center (QMC)でホスピタリスト、千葉県の亀田総合病院で内科部長として働かれています。QMCではホスピタリストグループ運営にも携わり、日米の二刀流で活躍されています。

 ハワイでの2週間は濃密で刺激的な毎日でした。当院とQMCの違い、日本と米国の医療システムの違い、そして何より自分に足りていないものの多さを知ることができました。2週間に渡り、忙しい業務があるにも関わらず、多くの時間を割いて私たちの質問に答え、様々なことを教えていただいた野木先生には本当に感謝しかありません。本当にありがとうございました。

 QMCを見学して一番驚いたことは、研修を含めた様々な医療システムが合理的であり、工夫が凝らされている点です。例えば、レジデントが担当する症例は、症例を割り振る担当医師が勉強になると判断した症例が与えられます。私達がいた間に経験した症例の例を挙げると、リンパ腫、卵巣癌、多血症による腸管壊死や門脈塞栓でICU管理後、大腿骨転移部骨折、心不全(EF 30%)、ICD誤作動、膀胱癌+消化管膿瘍、感染性心内膜炎など多岐にわたっていました。その上で、レジデントは教育担当の指導医  監督下で治療や専門医への依頼を行います。 また、教育を担当する医師は、通常業務を免除され、レジデント の教育に専念できる配慮がされていました。

 こうした教育体制を取れる背景の1つとしては、 分業による業務の効率化があると思います。そして、この分業をうまく機能させる中心的役割を果たしているのが、ホスピタリストの存在です。 救急外来 を受診した患者さんは、ICU管理が必要なければ、まず、ホスピタリストの下で入院します。 ホスピタリストは、 自分で対応できる範囲であれば、自分で対応し、より専門性の高い治療が必要な場合には、 専門医に依頼します。 例えば、EF 30%の心不全は、ホスピタリストが対応しますが、ICDの誤作動といった専門性の高いものに関しては、担当した循環器内科医に調整をお願いしていました。

 医師の 分業だけではなく、多職種や 医療施設の分業と言う点でも合理的なシステムがありました。 まず、医師以外の職種の専門性が高いと感じました。 看護師は、看護師本来のスペシャリティーである環境整備や患者教育に集中できるように多くの看護アシスタントが働いていました。 また、ソーシャルワーカーは大学院を出ている必要があり、 高い専門性を有していました。 医療施設 の連携に関しては、QMC における平均在院日数は、6日間程度であり、急性期の加療を終了した患者さんはSocial Nursing Falsities (SNF) 移動していました。SNFは日本の地域 包括ケア病棟と似たもの で、 急性期後の 患者が、他の施設や自宅に復帰するまで の間滞在する場所です。 これが適切に機能している ことで、医師は急性期の患者の加療に集中できていました。こうした分業による効率的な医療の提供により、病院の収益を担保しつつ、 教育に十分な時間と資源を投入できていました。昨今、日本全体で議論されている働き方改革と教育の質の担保についても参考になる部分が多くありました。

 その他にも合理的なシステムだと思った点をいくつか紹介します。 それは、 医療の質を担保するための工夫です。 医療の質を担保するには、医師を含めた医療従事者の知識、技術、人間性を含めた医療のプロフェッショナルとしての卓越性と、 医療従事者同士が連携して、より良い医療提供するための適切な組織運営が必要になると思います。これを維持するためには、個々の医療従事者の客観的な評価や組織の客観的な評価が必要です。 QMCでは、レジデントの教育の中で、レジデント自身とその指導医が 双方向で評価が 行われていました。自分を客観的に見ることは難しく、 他人からの指摘がないとわからないことが多く あるので、このシステムは自分の弱点 に気づく ために重要だと思いました。また、5年もしくは10年に1度、専門医資格を更新するために専門員試験に合格する必要があり、医師の知識のアップデートが促されていました。 組織上においても、組織のマネージメントを行う役職につく際には、必ず オンラインでの講習を受ける必要があり、 適切な組織運営を行うための工夫がされていました。 医療の質を担保するシステム作りが、随所に凝らされていました。

  一人一人が意見を持ち、 それに基づき建設的な議論を行い、 適切なリーダーシップのもとで、不合理をそのままにしないで改善していくことが合理的なシステム作りには不可欠だと感じました。

 一方で忘れてはいけないのは、専門性の高い分業や質の高い医療や教育、組織力は高額な医療費に支えられているということです。医療費は高額だが一度入院すると、極めて質の高い医療を受けることができる医療でした。野木先生に紹介 していただいたKissickIron Triangle of Health care と言う概念がこれを端的に表しています。 三角形のそれぞれの頂点が、医療へのアクセス、医療のコスト、医療の質を表しており、 どれかが下がるとどれかが上がるといった具合に全てを達成することが難しいと言うことを表した概念です。打開策の一つとしては、テクノロジーの導入が重要であると考えられているようです。例としてQMCでは、 カルテの音声入力による 業務の効率化、電子カルテの共通化による情報伝達の効率化 など様々な工夫がありました。

 補足ですが、QMC には多くの ホームレスも入院していました。この医療費は、年間3億ドルにも及ぶとの事ですが、これは全てQMC の持ち出しでまかなっているとのことです。 この資金はQMCが保有する土地の賃貸料等の収益で補填しているそうです。 もともと、エマ王妃とその王が創設した病院であり、その歴史的背景からQMCは、日本の民医連のような役割を果たしていました。

 今回は、 自分の病院のシステム や研修を客観的に見直す機会に恵まれました。 これを生かして、今後の地域医療に貢献したいと思います。 一生懸命研修しているつもりでしたが、まだまだ 未熟な部分が多く、 残り少ない初期研修期間を大事に過ごしていきたいと思います。



↑野木先生のチームのレジデントと休日のスペシャルランチ
(QMCのレジデントは、週休1日)

↑病院のセラピードッグと。病棟内で出会うことも。

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