新潟県医師会への提言に応募し、当選しました2
研修医2年目の菊地です。今日で研修医生活もちょうど2年。
糸魚川に来て、様々な経験をさせていただきました。本当にありがとうございました!
さて、先日新潟県医師会研修医奨励賞に応募し、奨励賞をいただきました!
加筆修正して、このブログに掲載します。
####### 以下、本文 #######
「糸魚川から見る高齢社会における救急要請の増加とその対応策について」
私が医師となり、2年がたとうとしています。初期研修として糸魚川総合病院で研修を行いました。また地域医療研修として県立柿崎病院(55床)と三次医療機関の県立中央病院(530床)の救急外来を経験いたしました。いずれも上越圏域にある病院であり、様々な種類の病院を経験しました。病院ごとにできる範囲が異なり、受け入れられる患者の年齢や重症度に違いがありましたが、いずれも患者の数に対して医者の数が少なく、仕事量は多いように感じました。その多い仕事量として、救急医療があります。研修した病院はいずれも救急医療を常時提供可能な状態を維持しており、その体制を維持しているだけでもかなり大変です。この問題は、医療リソースの確保と救急の対応数で考える必要がありますが、今回は糸魚川市の救急の対応数について焦点をあてて、問題を考えようと思います。
糸魚川市は、糸魚川市・上越市・妙高市で構成される上越圏域の一部です。上越市は20万人弱の人口を持ち、上越総合病院(二次医療機関、313床)や新潟県立中央病院(三次医療機関、530床)などの中核的な病院があります。
糸魚川総合病院(199床)は糸魚川市内の唯一の二次医療機関です。糸魚川総合病院から他の医療機関へは救急車でも1時間ほどかかるため、糸魚川市内である程度完結する必要があります。糸魚川市の人口は、2015年に4.5万人でしたが、2023年には3.9万人に減少しており、高齢化率が40.0%(参考値:全国平均29.1%)にも達しています。一方で人口の減少にもかかわらず、糸魚川市の救急搬送数は増加しています。2015年には1,923件でしたが、2023年には2,442件へと26%も上昇しました。
どうしてこのように救急搬送数が増加しているのでしょうか?救急車を要請するまでのステップを考えてみます。
従来考えられる要請のステップは以下の通りです。
- 急な病気やケガをした
- 医療機関を受診したい・させたい
- 緊急性の高い症状と判断する
- 救急車を呼ぶ
これをパターン1と呼ぶことにします。パターン1は、急病や外傷など緊急対応が必要な症状に対して、従来想定される一般的なケースです。
一方で、パターン1に当てはまらないケースも多々経験します。要請のステップとしては、このようになります:
- 急な病気やケガをした
- 医療機関を受診したい・させたい
- 緊急性はそこまで高くない
- 自分や家族の力で医療機関を受診できない
- 救急車を呼ぶ
これをパターン2と呼ぶことにします。パターン2は、本来的には救急車を使う必要のない軽症患者であっても、自身で移動できない、または移送手段がないといった事情により、やむを得ず救急車を利用せざるを得ないケースです(例えば、家族がコロナに感染していることがわかっている同居の高齢者が発熱して立ち上がれなくなったため救急搬送された、など)。
パターン2は、今後さらに増加してくると考えられます。これらのケースは救急医療機関の負担増加に直結しており、現行の体制における大きな課題の一つです。
この問題を解決するためには、以下のようなことが考えられます。
1.「急な病気やケガの頻度を下げる」。
まず急な病気について考えてみると、高齢化率が上昇し続けていく中では、いくら対策をしていても急な病気を減少させることは難しいでしょう。コントロール可能なものとしては生活習慣が考えられますが、効果が得られるまでに10年単位の時間がかかりそうです。ケガの頻度についてはどうでしょうか?交通事故の搬送数は減少傾向ではありますが(糸魚川の交通事故H27年188件→R5年113件)、負傷については増加しています(糸魚川の一般負傷H27年333件→R5年454件)。交通事故の減少は人口減少、負傷については高齢化率上昇(運動機能が低下している住民の数の増加)が関連している可能性があります。このように考えると、運動機能を向上させるような取り組みを行えば100件程度搬送数が減少する可能性がありますが、大きな減少にはなりえません。
2.「緊急性の高い症状と判断するときの精度を上げる」。 これは従来から多く行われています。適正利用を促すようなリーフレットやアプリ、自分で判断が困難な時に相談する#7119などがあります。これらをさらに広報していく必要はあると思われます。
3.「自分や家族の力で医療機関を受診できない場合の代替手段の整備」。 現在のところ、通院する交通機関は「通院等のための乗車または降車の介助」(いわゆる介護用タクシー)・自家用車が相当しますが、値段も時間もかからない救急車を利用することが多いため、交通手段や動けない高齢者をどのようにして搬送すべきかを考える必要があります。
糸魚川市を含む上越圏域では、高齢化と救急搬送件数の増加が医療体制に大きな負担を与えています。この問題を解決するためには、住民への啓発と代替手段の整備が有効であると考えます。
参考文献
* 糸魚川市 「統計いといがわ 令和2年度統計」
* 糸魚川市 「統計いといがわ 令和6年度統計」
* 政府広報オンライン「もしものときの救急車の利用法 どんな場合に、どう呼べばいいの?」(R7.1.10閲覧)
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201609/1.html#fourthSection
* 糸魚川市「「救急医療電話相談」が始まりました」(R7.1.10閲覧) https://www.city.itoigawa.lg.jp/item/21207.htm
* 内閣府 「令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」
* 地域情報システム(R7.3.31閲覧) https://jmap.jp/cities/detail/city/15216